iosif_or_something

about something about me or something about something

Storytime

少年が女の子をみつけたのは校門のすぐ前だった。卒業式を控えた寒くてさびしい季節で、グラウンドも道路も少し湿っていた。少年は話しかけるべきだと思ったし当然そうした。彼女がふりかえる。その途端に全ての言葉が消えてなくなった。喉が強烈に締め付けられる。いままで見たことのないスカート。細くて白い足。おろしたてに見える真っ白な靴下。湿った道路。さびしい季節。意識が少年の顔と胸の前でぐるぐる回り始める。心臓の鼓動がそれに拍をつける。少年は必死に言葉を探している。綺麗な髪の毛。怪訝な顔。なにか話すべきことがあったはずなのに。100年前にもこんなことがあった気がする。僕は侍で彼女は坊主だった。少年の視界からは光が失われ始めている。学校のチャイムが鳴る。今まで耳にしたことのない暴力的で非現実的なチャイム。灰色の空。意識はますますぐるぐる回るし高まる鼓動はほとんど少年を殺しかけている。湿ったグラウンド。真っ白な靴下。暴力的に回転する意識。言葉も彼女もどこかにいってしまった。少年は暗闇の中でふらふらになりながら何か心地よい大事なものが意識のどこかにひっかかっているのを感じるのだけどそれが何かはどうしても分からない。もうそんなことはどうでもいい気がするし、また100年待つだけの気力ももう残ってないような気もする。